私が愛してやまないYoutuber、にゃんたこ氏がおすすめしていたので読んでみました。
彼女は好きな作家は誰かと聞かれたら伊藤計劃氏を必ず挙げているそうです。
本って誰かが紹介してると、それも好きな人や尊敬する人ならいっそう読む意欲が湧くものですよね。
というわけでAmazonでさっそくぽちって読みました。
主人公は米軍大尉のシェパード大尉。暗殺がお仕事。舞台は技術が進んだ近未来といった感じで、造語や特殊な設定が多く登場している。9.11以降先進国は情報管理が徹底的に行い、どこで誰が何をしているかが監視されているような世界が作り上げられた。世界からテロはなくなっていくように思われたが、後進国では内戦や大量虐殺が急激に発生するように。その地域には必ずある男がいた。シェパードはその男を追っていく。
というのがあらすじです。
描写は主人公シェパードの一人称で語られており、任務を遂行しながらも悩み続ける主人公が描かれ続けます。
シェパードの母親は植物状態になってしまい、彼は延命措置をやめる決断をしますが、”自分は母親を殺した”という罪悪感に終始襲われ悩み続けます。
感情と痛みがコントロールできる世界
本書の世界では感情コンロールがある程度可能で、戦争や暗殺で人を殺しても精神が壊れないようになっています(確か)。体が痛いことがわかっても痛みを感じることはないようにもできます。なので、殺す対象が子供でも主人公は特に精神的ダメージを負うことなく任務を遂行していきます。
体が損傷し悲鳴をあげていることを知ることはできるが、痛いとは思わないというのはなんとも便利なものですよね。”無痛症”は感覚がないので気づかない間に致命傷、なんてこともありえるわけですからね。
でも、たとえ感情をコントロールできて暗殺を遂行し続けることができても、人間の精神はそんなに丈夫にできていない。シェパードの部下が自殺をしてしまいます。彼はクリスチャンであったのに関わらず。
それほどに人を殺すということは精神を蝕んでしまうものなのかと思いました。私が生きるこの世界で、殺人事件をテレビでよく目にするけど、彼らは後の人生をいったいどういう思いで過ごしていくのだろう。
常軌を逸していない感覚の持ち主ならば、一生罪悪感に蝕まれながら生きていくのではないだろうか。または時間が解決してくれていつかは過去の出来事として薄れてしまうのだろうか。
一度人を殺してしまうと、一生許してもらえることはない。死人はしゃべらないのだ。
シェパードも母の延命を中止してからというもの、悪夢のようなものを見続け、自分が悪いのかどうかを考え続ける。彼は許してほしかったのだと思う。母に、実際に、口から、”あなたのせいじゃない”と言ってほしかったのだと思う。しかしそれは永遠に叶うことはない。
主人公がマザコンというレビューを見たことがあるけど、自分はそう思わなかった。ただ、許してほしかった、それだけなんじゃないかな。
曖昧になった人間の死
人間が死んだ、ということはどこからなのか。
心臓が止まったら?脳が死んだら?脳の一部の機能が失われて、人格が変わってしまったら?
本作では高度な医療技術によって人間の死の境界が哲学的になっている。体はナノマシンでなんとかできるけど、脳はそうはいかない。
脳の半分が壊れてしまっても、その人はその人であり続けていると断言できるのだろうか。
その人をその人たらしめているものってなんだろう。もし意識だけを移植できて体を交換できたら、それは変わらず”自分”であると言えるのだろうか。
攻殻機動隊の素子さんは体はサイボーグで意識を体から体へと移し換えるシーンがあった。外見はかわっていないものの体はまったくの別ものなのだから、素子さんを素子さんらしくしているのはやはり意識、人格に他ならないのだろう。
なら、もし脳の一部でも破壊されて、人格が少し変わってしまったら、その人はそれでもその人であると言っても良いのだろうか。
人間は見たいものしか見ない
自分がこの本の中で好きな一文です。確かにって思いました。
虐殺の文法
なぜ後進国で紛争などが突如として発生するかというと、それは”虐殺の文法”にあった。
人々が虐殺の文法に触れると、争いを始めるというのだ。ジョンポールという男がその文法を使った文章を広告などに用いて拡散することでその国は内紛を始める。
私はそんなばかなと笑ってしまったが、少ししてからこれは荒唐無稽な話ではないと思った。
SNSでや掲示板、コメント欄での誹謗中傷の嵐で何人もの人が亡くなっている。
言葉の力はおそろしい。ばか、死ねなどと言ってはいけない。
小学生の頃先生は熱を込めて言っていたのを今でも覚えている。
当時の私といえば、ほーん、で?なんて軽い気持ちで聞いていた。罵詈雑言は聞いていて気分のよくないものだから絶対に使わないようにはしてきた。でも言葉が人を殺す力を持っているなんて微塵も思っていなかった。
今ではネットで誰でもコメントしたり発信することができる。
素晴らしいことだけれど、それが原因で命を落とす人もいる。
私にはコンビニアルバイトの経験がある。平気で人を傷つけ、攻撃するような言葉を放つ人がたくさんいた。
どうして他人に向かってこんなことが言えるのだろうと不思議で仕方がなかった。どうしてそういう物言いができるかが単純に気になり、「どうしてそんなに怒って、ひどい言い方ができるんですか?」と聞いたことが何回かあるけど、火に油を注ぐようだったのでやめた。
自分はクソみたいな客は人間だと思わないようにしているから、あーやなこと言われたなぐらいで済んでいたけど、泣いてしまったり接客が辛いと言って辞めていった人を何人も知っている。
どうして人に優しくできないんだろう。優しくできなくても、攻撃することはないのにね。
総合的に
緻密に作り上げられた世界観に魅了されて、一気に読むことができた。SFの世界を作り上げる人の頭の中ってどうなっているんだろう。本当にすごい(こなみ)
同じ著者のハーモニーも読んだので、その感想もいずれの日にか書きたいと思います。
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